狂愛メランコリー


 支度を整えて家を出る。
 ふと、不安感が心に影を落とした。

 そろそろ向坂くんに怪しまれたりしていないだろうか。

 本来の「5月7日」のわたしとは、随分かけ離れた行動をとっているはずだ。

 向坂くんが、わたしに記憶があるという可能性に行き着いてもおかしくない。

 疑われないためには、本来のわたしに近い行動をとるべきだ。

(そうは言っても……)

 理人のときみたいな駆け引きは意味がない。

 殺すこと自体が目的だから、わたしがどんな態度をとろうと関係なく手を下すだろう。

 それなら、やはり何がなんでも殺されないようにしないといけない。その方が大事だ。

 せっかくここまで色々と掴めたのに、殺されたらぜんぶ水の泡になってしまう。



 昇降口にさしかかったとき、わたしは硬直したように動けなくなった。

「うそ……」

「待ってたぞ、花宮」

 柱に背を預けていた向坂くんが、身を起こして歩み寄ってくる。

 獲物を見つけたみたいに爛々(らんらん)と光る双眸(そうぼう)が恐ろしくて足がすくんだ。

「どうして……」

「何が?」

 思わず言葉がこぼれ、慌てて口をつぐむ。

 向坂くんには記憶があるのだから、毎回行動がちがうのは当たり前だ。

 何度もわたしを殺せずに“今日”を終えている現状では、同じ結末を避けるためにこうして積極的になりもするだろう。

「な、何でもない。早いんだね、向坂くん」

 無意味だと分かっていながらも、繕うようにぎこちなく笑った。

 少しでも風向きが変わらないか、藁にも縋る思いだった。

「まあな。こうでもしないとおまえに会えねぇから」

 唇の端をきつく結んだ。

 惑わされちゃだめだ。彼の言葉に他意なんてない。
 わたしを殺すことだけが、彼の目的で原動力なのだから。

「何で上に来なくなったんだよ? ……記憶が理由じゃねぇなら、繰り返すほどその日も変化すんのか?」

 尋ねているというよりは、ほとんどひとりごとのように考えを口にした。

 わたしの記憶を疑っていないからこそ、大胆にも憶測を口にできるのだろう。

 もしくは、何を知ったって殺してしまえばいい、と考えているのかもしれない。

 わたしには何もできないと思っているの?