狂愛メランコリー


 ────1限終わりのチャイムが鳴った。
 いつの間にそれほど時間が経っていたのだろう。

 立ち上がった蒼くんは伸びをしつつ、わたしを振り返った。

「俺、授業サボったの初めて。何かわくわくするね」

 小さな背徳感を共有して、つられるように笑う。

「そろそろ戻る?」

 一瞬うつむいてから顔を上げる。

「……先に行ってて。わたし、お手洗い寄ってから戻るね」

「ん、分かった。またあとで」

「うん。色々ありがとう、蒼くん」

 手を振りつつ歩き去っていく彼を見送ると、そっと立ち上がった。

 だけど、力が抜けてすぐにその場に屈み込む。

 理性にしがみついて必死でこらえていたけれど、波立った感情がいまにもあふれそうだった。

 何度も何度も死の恐怖と苦痛を味わった。
 以前のループと合わせても、もう十分すぎるくらい。

 それでもまだ足りないっていうの?
 いったい、わたしが何をしたの?

『忘れたくないなら、自分で死ねばいい』

 死んでも明日は来ないのに、死ななきゃ前に進めない。
 いずれにしても、今日も死は避けられないんだ。

 もう一度立ち上がると、花壇を背にした。
 そっと目を閉じ、息を吸う。

(蒼くん……)

 “明日”、わたしは覚えていても彼はリセットされるだろう。
 つかの間の平穏はあっけなく壊れてしまう。

 悲しいけれど、またいちからでも“明日”の彼を信じるしかない。

 後ろに体重をかけて、背中から倒れていく。
 後頭部に硬いレンガが迫り、鮮血(せんけつ)(ひるがえ)った。



     ◇



「痛たた……」

 ベッドの上で身を起こし、頭を押さえながら顔を歪めた。

 もう起きるのにアラームなんて必要なくなっていた。
 痛みのせいで勝手に目が覚める。

(……蒼くんの言ってた通りだ)

 死ぬとしても、向坂くんに直接手を下されなければ記憶を保っていられる。

 忘れたくないなら、自ら死に続けるしかないんだ。
 その中で結論を見つけないと。

(でも、チャンスはあと何回残ってるんだろう……?)