そんなふうに言ってくれるなんて思わなかった。
どこまで優しいのだろう。
身勝手なわがままで振り回してしまうかもしれないのに。
「……ありがとう」
「ん、どういたしまして」
ふんわりと蒼くんは笑った。
真っ暗な世界に閉じ込められていたところに、不思議と光が射し込んできたような気がする。
まだまだ分からないことだらけだし、蒼くんのことも知らないことだらけだ。
それでも、信じたい。
彼の優しさは本物だと。
「……忘れたくないなぁ」
気づけば口をついてこぼれていた。
次に殺されたとき、記憶を失ってしまったら、わたしはまたひとりぼっちになってしまう。
蒼くんの優しさも寄り添ってくれたあたたかさも忘れて、絶望の渦に飲まれてしまう。
そんなの嫌だ。
「────簡単だよ」
蒼くんは微笑をたたえたまま、平然と言ってのける。
「忘れたくないなら、自分で死ねばいい」
「自分、で……?」
「そう。たぶんだけど、殺されなければ記憶は残る」
それができたら苦労なんてしない。
ループから抜け出せるはずだから。
そう思いかけて、はっと気がつく。
殺されなければ、というのは、単に死に方の話だ。
記憶を失わなかった“昨日”とその前、自分がどう命を落としたのかを改めて思い出す。
確かに死んだ。
でも、向坂くんに殺されたわけじゃなかった。
「これはきっと、仁くんが作り出したループなんだよ」
蒼くんの言いたいことが、何となく分かってきたような気がする。
向坂くんが作り出したループ。
彼の残虐な欲望を満たすためだけに繰り返す世界。
「それなら、向坂くんの思い通りにならないようにすれば……」
つまり────彼に殺されないようにすれば、記憶を失わない?
向坂くんの望みと異なる行動が、彼の意図を上回って思わぬ展開を生むのかもしれない。
わたしに記憶があることは、向坂くんにとっても想定外なはずだから。
きっと、彼の思惑と逸れる行動が抜け道に繋がるんだ。



