狂愛メランコリー


「“最初”は? 覚えてない?」

 思い返すように記憶をたどった。
 初めて向坂くんに殺されたときは、どんなだったんだろう。

(うーん……)

 思いを()せたとき、ふと脳裏(のうり)に不鮮明な映像がよぎる。

 断片的にちらついただけだけれど、屋上の景色が広がっていた。

『これからは何度でも、何度でも何度でも何度でも……』

 耳に残る彼の声に、感情がざらつく。

『俺がおまえを殺してやる』

 あまりに衝撃的で、色濃く焼きついていたみたいだ。

 それが、初めて殺されたときのことなのかは分からない。
 けれど、わたしは確かにそうして殺されたことがあるみたいだ。

「大丈夫? 菜乃ちゃん」

「え……」

 ふいに声をかけられ、ぱちん、と目の前で泡が弾けたような感覚がした。
 心配そうな眼差しを注がれている。

「苦しいの?」

 そう言われて初めて、自分の手が首元を押さえていたことに気がつく。

 無意識に、記憶の中の向坂くんに(あらが)っていたみたいだ。

「大丈夫……。ごめんね」

 曖昧に笑いながら言うものの、蒼くんの表情は晴れなかった。
 それどころか、むっとしたように曇る。

「もう俺に謝んないで」

 そっと伸びてきた右手が頬に添えられる。

「一度頼ったからには、全体重かけて寄りかかってくれていいんだよ」

 思わぬ言葉に、その穏やかな瞳を見返す。

 優しい風がそよぎ、記憶の中でスイートピーが淡く香る。

「何か……理人みたい」

 つい、そう呟いてしまった。
 全然ちがうはずなのに。

「あ、ごめん。その……」

 はたと失言に慌てるも、彼は緩やかに微笑む。

「いいよ。じゃあ、俺を理人くんだと思って」

「え」

「それなら甘えてくれるんでしょ。信じて頼ってくれるなら、その方がいい」

 頬に宿っていた温もりが消えたかと思うと、ぽん、と頭を撫でられる。

 思い知った。
 わたしがどれほど理人の存在に救われていたか、溺れていたか。

「嫌じゃ、ないの……?」

 わたしは結局、蒼くんを信じているのか、蒼くんを通して理人の幻影を求めているのか、分からない。

 彼の死を引きずっているのは確かで、その衝撃と悲しみから抜け出すには、あまりにも時間が足りなくて。

「嫌じゃないよ」

 蒼くんはそう即答した。

「だって菜乃ちゃんにとって大事な人でしょ? そんな人と重ねてもらえるって、俺は嬉しいけど」