いっそう真面目な表情を浮かべた蒼くんは、掴まれた腕とわたしを見比べて惑っているようだった。
「なに……? どういうこと?」
「わたし、殺されるの。隣のクラスの向坂くんに」
「え?」
「実際にもう何度も殺されてて、そのたびに時間が巻き戻る。……“今日”は初めてじゃない。もう生きたの」
蒼くんは気圧されたように黙り込み、ただじっとわたしを見つめていた。真剣さを測るみたいに。
「ちょっと、待って。本当に言ってる?」
「本当。こんな嘘つかないよ……!」
訴えかけるように見返したけれど、彼は困ったように笑って首を傾げた。
信じられない、と言わんばかりに。
それが普通の反応なのだと思う。
否定されないだけまだましだ。
わたしだってクラスメートから突然こんな相談を受けたら、からかわれていると思うはず。
でも、だからって彼の協力を諦めるわけにはいかない。
きっと、いま頼れるのは蒼くんしかいないから。
わたしは小テストの勉強をしている女の子の方を指し示した。
「見て。もうすぐあの子の消しゴムが落ちる」
果たしてその言葉通り、袖が触れて机の上を滑った消しゴムが床に落ちた。
それを目の当たりにした蒼くんは、驚いたようにわたしを見やる。
「すごい。何で分かったの?」
「言ったでしょ……? わたし、今日はもう何度も生きてるの」
実際に教室の風景を目にしたのは、そしてその記憶があるのは、少なくとも“昨日”だけだったけれど。
「でも、消しゴムくらいなら偶然かも……」
「じゃあ、あれ見て。あの人が立ち上がったとき、ぶつかって水がこぼれるから」
スマホを囲んでいた男の子の輪のひとりが立ち上がると、その拍子に後ろを通った別の男の子にぶつかった。
わたしの言葉と寸分違わず、衝撃でペットボトルの水がこぼれる。
蒼くんは目の前の光景に圧倒されたみたいだった。
「本当なの……? 予言じゃん、これ」
男の子の謝る声を聞きながら、ゆるりとこちらを向く。
次の瞬間、取られた右手が包むように握られた。
「俺……信じるよ、菜乃ちゃんの話。もっと詳しく教えて」



