狂愛メランコリー




 学校へ向かう前にミルクティーを買った。

 向坂くんがいるから屋上へは行けないけれど、理人の存在を近くに感じていたくて。

 机の上に置くと、席についたわたしは左手首を握り締めるようにしてうつむく。
 お守り代わりの腕時計に(すが)る。

 ────今回のループは、理人に殺されていたときのそれとは色々とちがっている。

 向坂くんが言うには、死に際に腕時計を持っていても記憶を保てない。

 “昨日”はともかくその前は、彼には腕時計を奪う機会があった。
 それでもわたしは記憶を失わなかった。

 あの状況で向坂くんが見逃すとは思えないし、彼の言葉に嘘はないのだと思う。

(新しい法則……何なんだろう?)

 一方、ループのトリガーについては以前のそれと同じようだった。
 つまり、わたしの死。

 向坂くんに直接手を下されなくても、わたしが死んだら時間が巻き戻る。

 ただし、戻るのは2日前じゃない。
 目覚めるのはいつも、その日の朝。

 繰り返すのは3日間じゃなくて、今日一日だけだ。

「……っ」

 ずき、と痛みが揺れて思わず頭を抱えた。
 頭痛や倦怠感は日に日に増している。

 時間が巻き戻って生き返っても、死の苦痛は身体に残って蓄積していた。

 憶測はきっと正しくて、じわじわと本当の死に近づいているのだ。

『愉しいから。それ以外ねぇだろ』

 そんな利己的で残虐な動機に、わたしの命は(もてあそ)ばれている。

 向坂くんが求めるのは血と涙であって、わたしの言葉は雑音(ノイズ)でしかないのだと悟る。

 なんて救いようがないのだろう。

 彼が満足するか飽きるまで、黙って殺され続けるしかないのかな。

 先の見えない暗闇へ引きずり込まれそうになって寒気がした。

(いまはいったい、何回目なんだろう……?)