「ごめん、わたしの勘違い」
「……本当に?」
苦く笑って誤魔化したつもりが、彼はかえって食いつくように身を乗り出した。
「何か変だよ。いつもとちがう。理人くんのこと以外で何かあったんじゃない?」
どきりとした。
見透かされている。
優しくて親しみやすい眼差しの奥に覗く、鋭い色に気づいてしまう。
単なる好奇心なのだろうか。
蒼くんは色々気にかけてくれるけれど、正直なところ、まだ全面的に信用しきれない。
深読みして余計なことを勘繰ってしまうのは、向坂くんの前例があるせいだ。
理人に殺されていた頃は、こんなふうにして偶然知り合った向坂くんを頼った。
だけど、最終的にはその向坂くんが豹変してしまった。
今回また同じように蒼くんを頼って、彼まで向坂くんのようになったら、と思うと怖い。
それこそ無限ループだ。
巻き込んだ人をもれなく不幸にする。
そんな懸念があるからこそ、正直に話すわけにはいかないと歯止めがかかる。
不用意に巻き込めない。
このループは、関わった人の色々なものを壊してしまうから。
(心細いけど、ひとりでどうにかするしかない……)
そう気負い直し、ゆるりと首を横に振る。
「ないよ、何も。大丈夫」
「……そう?」
────ふいに沈黙が落ちると、教室のささやかな喧騒が耳に届く。
3限にある小テストのために勉強している女の子。
その消しゴムが転がって床に落ちる。
面白い動画でも見つけたのか、嬉々として友だちとスマホを覗き込む男の子たち。
輪のひとりが立ち上がった拍子に別の人にぶつかって、その人が手にしていた水がこぼれた。
彼は申し訳なさそうに平謝りしている。
どれも、なんてことはない日常の風景。
それなのに、わたしだけが取り残されている。
破線で切り取って上から無理やり貼りつけられたみたいに、何だか馴染めない。
「……菜乃ちゃん」



