夢か(うつつ)か、その狭間を漂っているうちに夜が明けた。

 ────4月30日。

 アラームはまだ鳴っていない。

 全然寝られた気がしない。

 なかなか眠れなくて、やっと眠りに落ちてもすぐに目が覚めた。

 そのたびに不安に苛まれ、何だかどっと疲れてしまった。

「…………」

 起き上がっても、身体が重くだるい。

(学校、行きたくないな……)

 向坂くんと顔を合わせるのが怖い。

 また、昨日のようなことがあったら────。



「菜乃、起きてる? 理人くんが来てくれてるわよ」

 階下からお母さんの声がした。

 いつの間にかそんな時間になっていたようだ。

 何やら二人の話し声が小さく響いていたかと思うと、不意に部屋のドアをノックされた。

「菜乃」

 ドア越しに理人に呼びかけられる。

 お母さんが招き入れたのだろう。こんなことは今までにも何度もあった。

「…………」

 どくん、と心臓が鳴る。

 ……何だろう。

 今はなぜか、あまり理人に会いたくない。

「まだ寝てるの? 遅刻しちゃうよ」

 苦く笑う彼の姿が容易に想像出来る。

 私は頭まで布団を引き上げた。

「今日は行きたくない……」

「どうして? 体調でも悪いの?」

 寝不足なせいか、体調は確かによくない。

 でも、それより大きな理由が他にある。

 理人は本当に分からず問うているのだろうか。

 それとも、彼にとってはどうでもいいことなのだろうか。

 あるいは、私を試してるの?

「怖いから……。向坂くんが」

 つい、口にしてしまった。

 ドアの向こうが静かになる。

 昨日、理人が言っていたことをきかなかったから、怒ってしまったのだろうか。

 長い沈黙だった。

 昨日からそうだ。

 向坂くんの話題になると、理人は様子がおかしくなる。

 ぴりぴりするような空気感を肌で感じながら、私は彼のリアクションを待った。

「……入るよ」

 ややあって、理人が言う。

 ドアが開き、彼が部屋へ踏み込んでくる。