悪夢は実際には現実で、失った記憶の断片だった────。
それは以前、理人に殺されていたわたしが最初に覚えた違和感と気づきの糸口だった。
いまよぎった光景が、もし本当に記憶だったら。
まさか、わたしは。
「……もしかして、本当に殺されてたりして」
弾かれたように顔を上げ、蒼くんを見やった。
(本当に、殺されて……?)
「なーんて。ごめん、笑えない冗談言った」
彼は漂った重たい空気を吹き飛ばすように笑う。
そう、冗談だ。
わたしが殺されているなんて、そんなわけがない。
第一、誰に殺されるというのだろう。
ループは終わったし、わたしを殺していた理人だっていない。
「ごめんね。俺、無神経だったね。でも、あんまり苦しそうだから……」
「ううん、心配かけてごめん。本当に大丈夫だよ」
申し訳なさそうにうつむく蒼くんに、やんわりと笑って言った。
「じゃあ……わたし、行くね」
鞄を肩にかけ直し、彼と別れる。
今度こそ屋上を目指して階段を上っていった。
この不調やよぎった光景のこと、向坂くんに相談してみようかな。
屋上へ繋ぐ扉の小窓から、朝の柔らかい光が射し込んでいる。
向坂くんは壁に背を預け、億劫そうに立っていた。
わたしに気づくと、身を起こして数段下りてくる。
「今日は遅かったな」
「うん……。ちょっと」
昇降口でのことや刺すような痛みのことを言おうとしたのに、なぜか言葉が詰まって声が出なかった。
鞄とミルクティーを置き、倦怠感を紛らわせるように段差に腰を下ろす。
向坂くんも同じように座った。
「……大丈夫か?」
彼にまで心配されるなんて、よっぽどひどい顔色をしているのだろう。
曖昧に笑って首を傾げた。
「死にそうな顔してる?」
「……あ?」
「ちょっとね、疲れてるみたい」
眉を下げ、思わず息をつく。
「だいぶしんどそうだな。三澄のせいで寝れてねぇんだろ」
「寝不足なのはそうだけど、理人のせいってわけじゃ……」
いや、そうなのだろうか。
理人のことを考えてしまうから眠れないのは確かだ。
一拍置いて、向坂くんが口を開く。
「……なあ、なら俺が眠らせてやるよ」



