狂愛メランコリー


 どきりとした。
 確かに向坂くんの言う通り、わたしは無意識に理人のことばかり考えている。

「でも……まだ1週間だよ。そんなすぐ平気になるはずない」

 真っ当な返答だと思うのに、どうして言い訳っぽくなってしまうのだろう。

 彼はわたしの言葉など想定内だと言わんばかりに息をつく。

「そうだろうな。けど、昔を懐かしむよりも一番思い出すのは、あいつの最期だろ?」

「それは……」

 否定できなかった。

 理人と紡いできた長い時間は、確かに色濃く記憶に焼きついているのに。

「ほら、な。ぜんぶ三澄の計画通り」

 向坂くんはどこか恨めしいように天を仰ぐ。

「ああやって死ねば、嫌でもおまえはあいつを忘れられなくなる。永遠に囚われ続けるんだ」

 色々思い出して、色々考えて、泣き尽くして眠りに落ちて。
 それでも朝目覚めれば、また暗い思考がぐるぐる巡って────。

「答えなんか出ねぇ問いを繰り返して、泥沼にはまってくんだよ。あいつの狂った“純愛”のせいでな」

 吹き抜けた風が頬を撫でて過ぎ去る。
 彼の黒髪を攫っていき、朝の光をピアスが弾く。

(……そんなことない)

 とっさに強くそう思った。

 自分を忘れさせないために、一生わたしを縛りつけるために、理人が死を選んだなんて信じられない。

 そんなことしなくたって、忘れるわけがないのだから。

『……ごめんね。僕がいると、きみが不幸になる』

 ────理人の最後の選択に、向坂くんが言うような黒い思惑なんてない。
 わたしはそう信じている。

 何か反論しようと顔をもたげたのに、向坂くんの横顔を見て言葉を忘れた。

 何だか憎々しげで怒っているように見える。

「どう、したの?」

 戸惑って思わず尋ねれば、わたしに視線を戻した。

「……どうしちまったんだろうな。俺にもよく分かんねぇけど」

 一拍置き、彼はポケットから手を出す。
 その右手にはペティナイフが握られていた。