狂愛メランコリー


 ループの中で向坂くんがわたしの死に立ち会ったとしても、その記憶は何度か消えたはずだった。

 けれど、本能には鮮烈(せんれつ)に焼きついているのだろう。

 思えば、兆候はいくつもあったかもしれない。

『いや、別に。……気になって』

 それは、人を殺す感覚のことだったのだろうか。

 わたしに寄り添うふりをして、理人がいなくなるのを待っていたの?
 じっと機会を窺って、自分のエゴを優先して。

(どうして……)

 心の中で無意味な問いを繰り返した。

 最初は、ううん、一度くらいは、本気でわたしを心配してくれていたって信じたい。

「やっと邪魔者が消えてくれたからな。これで思う存分おまえを痛めつけられる」

 ぎりぎりと、爪が肌に食い込む。

 ループの中で彼が理人を殺そうとして、その理人がいなくなって、きっと向坂くんの(たが)は完全に外れてしまったのだ。

「死ぬときは強く願えよ。“やり直したい”って……。一度きりでくたばるなよ、頼むから。足りねぇよ、そんなんじゃ」

 意識が朦朧(もうろう)とした。

 頭の中が霧がかって、何も考えられない。
 痛みも苦しみも遠のいて、死が迫り寄ってくる。

 向坂くんは愉悦(ゆえつ)を滲ませ、せせら笑う。

「これからは何度でも、何度でも何度でも何度でも……」

 視界が歪み、涙がこぼれ落ちた。

「俺がおまえを殺してやる」



     ◇



 アラームが鳴り響く。
 画面をタップして停止すると、ロック画面を見た。

 ────5月7日。午前7時。

 理人の死の悲しみに暮れながら、起き上がったわたしはベッドから下りた。