狂愛メランコリー


 理人の件があって、もともと立ち入り禁止だった屋上は厳重に閉鎖された。

 けれど、向坂くんはドアノブに巻かれた鎖を勝手に破り、鍵を壊して出入りしているようだ。

 屋上に出てふちへ歩み寄ると、買ってきたミルクティーを置いて黙祷(もくとう)を捧げた。

「……三澄は本気で愛してたんだな、おまえのこと」

 ぽつりと呟かれた言葉を耳に、そっと目を開ける。
 左手首の腕時計に触れた。

 幼なじみとして、異性として、人として、彼の抱いてくれていた想いは確かに、愛と呼ぶにふさわしいものだったのかもしれない。

 とろけるほど甘くて刺すように苦いその愛に、もっと早く気づいていたら、またちがった結末を迎えていたのだろう。

 いまとなってはもう、振り返っても戻ってやり直すことなんてできないけれど。

「────向坂くん」

 わたしは立ち上がり、彼を見上げた。

 このループの中で、出会えば必ずと言っていいほど助けてくれた向坂くん。

 本来の出会いがどんなだったか、わたしには記憶がない。
 でも、どの出会い方も嘘じゃない。

 どの世界線での出来事も、彼との時間も、覚えていないだけでしっかりと刻まれている。

 いつも、気弱なわたしに道を示してくれた。

 諦めそうになっても励ましてくれて、お陰でまた頑張れる気がした。

「本当にありがとう」

 自分の想いを自覚しながら、改めて彼に告げる。

 向坂くんがいなかったら、とっくにわたしの心は折れていただろう。

 すべてを投げ出して諦めて、繰り返す3日間の中に永遠に閉じ込められていたかもしれない。

 ────いまは色々と気持ちに整理がつかないから、思いの丈を伝えるのはまだ先になりそうだけれど。

「……はぁ」

 ややあって、彼が深く息をついた。
 ポケットに両手を突っ込んで、噛み締めるように天を仰ぐ。

 どうしたのだろう。
 何だか普段と様子がちがう。

「やっと、俺の番だ」

 思わぬ言葉に困惑した。

「え……?」