狂愛メランコリー


 繰り返してきたこの3日間のすべては、本来存在しないはずの世界線だった。

 だから、もしかすると結末は絶対的で、やり直しではなく単に“可能性”を見ることができただけだったのかもしれない。

(……ああ、そっか)

 やっと気づいた。

 “もう一度やり直したい”という死に際の願いは、この3日間だけの話じゃなかった。

 理人との関係性を、という意味も込めて願ったんだ。

「理人」

 わたしは静かにその名前を呼んだ。
 不安気に揺れる瞳をまっすぐに捉える。

 何度も同じ3日間を繰り返した。
 でも、どれひとつとして同じ日なんてなかった。

 何度繰り返しても、努力しても、分かり合っても、運命は変わらない。
 同じ時間に戻ってくる。

 それなら────。

「……もう、終わらせて」

 ずれてしまった現実の軌道修正をするために。
 歯車の歪みを元に戻すために。

 本来、死んだはずのわたしが()()()()だけだ。



     ◇



 ────4月30日。

『……少しだけ、時間をくれないかな』

 あのとき、彼はそう言った。

『2日後、屋上で話そう。()()に』

 この日を迎えるまで、繰り返してきた3日間を忘れたように、いままで通り理人と過ごした。

 すべてを知って結末を待つ中、わたしは自分の意思でそうした。

 彼の心を置き去りにした(あがな)いでもあり、単純に彼と一緒にいたい気持ちもあった。

 わだかまりも不信感も消え去ったいま、昔みたいに笑い合うことができた。
 “王子”でも“灰かぶり姫”でもない、ただのわたしたちとして。

 その一方で、向坂くんのことは避け続けた。

 心配してくれているのは分かっていたけれど、彼と会うと覚悟が揺らいでしまいそうで怖かった。

 受け入れたはずの結末を、拒絶したくなりそうで。



 支度を済ませると玄関を出て、門の外にいる理人と落ち合う。

「おはよう、菜乃」

「おはよう」

 微笑む彼に同じように返すと、ふたり並んで学校までの道を歩いていく。

 きらきら降り注ぐ朝の光は柔らかくて、吹いてくる風は穏やかで優しい。

 いつもより早い時間だ。
 これならきっと、向坂くんもまだ来ていない。