狂愛メランコリー


 色素の薄いその瞳が揺れた。

 わたしは手に力を込めたけれど、一方で彼はおののくように引っ込める。
 首から温度と感触が消える。

「……っ」

 理人は苦しげな面持ちで一歩あとずさった。

「ごめん……」

 やがて、ぽつりと呟かれる。

「本当にごめん。僕……何度も何度も菜乃を殺した」

 少なくとも覚えている限りでは、初めてのことだった。
 理人が素直にそれを認めたのは。

「うん……」

 わたしはそっと頷き、震える彼の手を握る。

 ここにいるのは完璧な“王子さま”なんかじゃなくて、等身大の理人だった。

「いま、何回目なの……?」

「……今回で、10回目」

 知らなかった。
 初めて殺されてから、わたしは既に9回も死を繰り返していたのだ。

「いつも……頭が真っ白になる」

 彼は言いながら、レンガ造りの花壇のふちに腰を下ろす。
 わたしもそれにならって隣に座った。

「僕はただ、菜乃と一緒にいたいだけだった。それなのに、いつも必ずどこかでおかしくなる。世界が狂って壊れてく」

 その綺麗な横顔を見つめ、何も言わずに言葉を聞いた。

「最初もそうだった。……菜乃をほかの誰かにとられるのが嫌で、ずっと僕のそばにいて欲しくて」

 彼の言葉を聞いて気がついた。
 殺しの動機を“歪んだ純愛”と言うには、短絡的すぎたこと。

『苦しいの。辛くて、もう我慢できない。そんな思いしてまで、理人のそばに無理やりいる必要ある……!?』

 理人はきっと、わたしに“裏切られた”と思ったんだ。

『わたしがずっと、理人のそばにいる』

 あの秋の日の約束を破って、身勝手なことを口走ったから。

 理人の気持ちなんて微塵(みじん)も考えず、無神経にも突き放したから。

 最初に殺されたときの、彼の苦しげな表情が頭から離れない。

『小さい頃からずっと好きだった。僕には菜乃しかいないんだ』

 わたしにとってもそうだったように、理人にとってもそうだった。

 わたしには理人しかいなかったし、理人にはわたししかいなかった。それなのに。

(それなのに、わたしは────)