「由乃、早く入って」


後部座席のドアが開き、私は促されるまま車に乗り込む。



「茜ちゃん、ごめん。私の傘が濡れてるんだ。車のシートが濡れちゃうね」


「すごい雨だよね。そんなこと気にしなくていいってば。ねぇ、兄貴」



運転席には、茜ちゃんのお兄さんがハンドルを握っている。

初めましてだ。


紫のモヒカンヘア。

耳だけじゃなく、鼻にまで刺さっているリングピアス。



うちの家族はちょっとだけお行儀が悪いって、よく茜ちゃんが言っているけど。

見た目は、ちょっとだけ怖そうだなと、私はついつい身構えてしまう。



茜ちゃんのお兄さんだし、悪い人なわけがない。

こういう時こそ、笑顔笑顔。


私は斜め前の座席に向け、ペコリ。