魔王の婚約者

 婚約―男女が結婚の約束をすること。契約のひとつ。

 なぎさは、トバ国王太子から婚約指輪を受け取った。金剛石(ダイヤモンド)のリングだった。王太子は藤堂タイガといった。金髪碧眼の美少年だった。さらさらのセミロング。切れ長の目だった。フェイスラインはシャープ。鼻筋が通っていて、唇が薄かった。背が高くがっしりしていた。足が長かった。
 王太子から詩ももらった。
 王太子は宮廷で「顔だけ」「かっこだけ」と揶揄されていた。また「あんな美少年」というやつもいた。王太子が詩作をしていることを「あんな美少年が」と言い立てるものたちがいた。「あんな美少年が書くなんて」など。
 王太子はなぎさの黒髪と黒い瞳を気に入ってくれた。
 なぎさは、婚約指輪を薬指にはめた。
 そうして、トバ国王宮に招かれた。それは立派な宮殿だった。そこで大きな部屋をあてがわれた。部屋内に寝室と居間があった。天井には豪華なシャンデリヤ。居間には本棚があった。テーブルがありソファがあった。寝室には大きなベッドがあった。また洗面台もあった。
 なぎさは王宮の女性によく思われていなかった。
 「黒髪黒瞳(こくはつこくどう)よ」
 「あんなの初めてみたわ」
 「魔族よ」
 「性格最悪よ」
 「あの中魔族が入ってるんだわ」
 「お前がぶすなのは性格の方だ」
 このようなやじが飛んだ。
 「ああいうやつは性格が」「ああいうやつは性格が悪いんだ」「ああいうやつは性格ワルなのに何でだ」なんて失敬なこという輩もいた。人としてどうかという性根の腐ったものだ。
 それでも王太子は優しかった。