魔王の婚約者

 大貴族井川侯爵。トーセアイランドの領主だ。イケメン、イケオジだった。切れ長で、茶色い瞳をしていた。茶色の髪が長かった。トーセアイランド、ワグタウンの海岸のがけがあるところに屋敷を構えていた。「あんな大貴族は今時いらっしゃらないよ」と噂されていた。井川侯爵には、令嬢がいた。
 井川なぎさ。黒髪黒瞳漆黒(こくはつこくどうしっこく)。この世界では珍しかった。特に人間では。
 人間ではない種族がいた。魔族(デモンズ)魔族(デモンズ)でも黒髪黒瞳(こくはつこくどう)は珍しいが、人間よりは多いということだった。
 髪は長いストレートヘア。腰まであった。前髪も長かった。前歯が出ていた。
 なぎさは、不思議な力を持っていた。そのこともあって幼いころより「魔族」といじめられてきた。
 「魔族だ」
 「あいつ魔族だぞ」
 「魔族だ」
 なぎさはみんなから仲間外れにされていた。
 また黒髪黒瞳は美しいとされることもあって、美しいが性格が、と揶揄する者たちもいた。そうでなくともなぎさは美しかった。
 「美しいけど、性格がね」
 「ああいうやつは性格がだめなのさ」
 「心のことを言っているんだ」
 と、呼ぶ者たちがいた。
 また目に見えない妖精と手振りをまじえたりして話しているので、みんなに気味悪がられた。「誰としゃべっているんだ」「誰かとしゃべっているみたいだ」「独り言言っている」「独り言ぶつぶつ言っている」とみんなに噂された。
 不審者と呼ぶものもいた。
 またなぎさは妖精を使役する力もあった。
 侯爵は娘を溺愛していた。井川なぎさは、トバ国王太子から求愛された。