こう見えて、彼は思ったよりも優しいのかもしれない。
 胸の内に、温かなものが広がる。

 ベアトリスは馬車の窓から後ろに流れる景色を眺める。大通り沿いの大衆酒屋では店の外のテラス席で陽気に杯を交わし合う人達が見えた。

(なんだか、疲れたな)

 慣れないことをしたせいで、どっと疲れが押し寄せる。
 ふわっとあくびが出そうになり、慌てて口元に手を当てて噛みつぶした。
 でも、怖い思いした甲斐あって怪しいふたり組を拘束することができた。あの人達から犯人の糸口が掴めればいいなと思う。

 ちょっとだけ、と思ってベアトリスは目を閉じる
 頭を撫でられるような、優しい感覚がした気がした。


 ◇ ◇ ◇


 翌晩のこと。
 ベアトリスの声が離宮内の私室に響いた。

「ただの酔っ払いってどういうことなのでしょう! わざわざ町娘の格好をして、怪しい人をおびき出そうと頑張ったのに!」

 ベアトリスはいきり立ち、訪問してきたアルフレッドに訴える。

「捜査とは往往にしてそういうものだ」
「それはそうなんですけど……」