「捕獲しろ」

 辺りから黒い制服を着た騎士達が現れ、一瞬で男は縛り上げられてご用となる。その間、ベアトリスが最初に声をかけられてからトータルで一分もなかった。

「大丈夫か?」
「ええ」

 団長のジャンから片手を差し出され、ベアトリスは自分も手を差し出す。手をきゅっと握られ、力強く引かれた。

「震えているじゃないか」
「だって、あんなチンピラに絡まれたのは初めてなのだもの」

 ベアトリスは口を尖らせる。

 ジャンは眉根を少し寄せる。ベアトリスの手を握っていないほうの手がこちらにのびてきて、ぽんぽんと頭を撫でられた。

「今日はよくやった。あとは取り調べ専門の騎士が対応するから、戻ってゆっくりしろ」
「はい」

 気丈に答えたものの、体の震えは止まらない。馬車に乗り込んだベアトリスは、その震えを止めるように腕を胸の前で組んだ。
 ドアを閉めかけたジャンが、ちらりとベアトリスを見る。

「少し待っていろ」

 ジャンそう言い残してドアを閉めると、背後にいる団員達のほうを振り返った。