「日頃頑張っているから、褒美だ」

 満面の笑みを浮かべるベアトリスを見下ろし、アルフレッドは表情を柔らかくする。そして、もう一度壁際の時計を見る。

「そろそろ行かなくては。では、またな」

 手に触れていた髪が指先から零れ落ちる。アルフレッドはポンとベアトリスの頭に手を置き、すぐに立ち上がると今度こそドアのほうへ向かう。

 ベアトリスは本を胸に抱いたまま、アルフレッドの後ろ姿を見送った。
 ひとりぼっちになった部屋で、今さっき貰ったばかりの本を見る。

(意外と優しいところもあるじゃない)

 部屋の中には、まだ彼のつけていた香水のかおりがほのかに漂っていた。