ベアトリスは持っていたペンを止め、自分の書いた文章を読み返す。
「……うーん。原文のままだと『きみなんだね』なのだけど、ここは『やっときみに会えた』のほうが、場が盛り上がるかしら? もしくは溜めを作って『……きみなんだね、リーア』がいい?」
文書翻訳の仕事は難しい。直接的に訳するのは言葉が分かれば誰でもできるけれど、作者がそのシーンで伝えたかった事柄やキャラクターの心の機微までも考慮すると、どの言葉を使って訳するのが一番いいのかいつも悩んでしまう。そして、そのセンスこそが翻訳家の一番の腕の見せ所であると、ベアトリスは考えていた。
「お嬢様。そろそろお支度をしないと間に合わなくなりますよ」
ベアトリスが机に向かってうんうんと悩んでいると、背後から声をかけられた。振り返ると、侍女のソフィアが心配そうにこちらを見つめている。
「え? もうそんな時間?」
ベアトリスは大きな水色の目を瞬かせる。
「ええ。そろそろ四時でございます」
「えっ、いけない。準備しないと!」



