「この事件、明後日の午前中までに要約を纏めておくように」
「はあ!?」

 ベアトリスは唖然としてジャンを見る。
 城下に行きたいと申し出たベアトリスに対して、更なる仕事を渡すとはどういう了見なのだ。要求を否定する代わりに何か代替案を提示してくれるのかと思った自分が馬鹿だった。

「もう下がっていいぞ」

 ジャンはいつものような横柄な態度で、視線で執務室の入り口を指す。
 ベアトリスは両手の拳を握りしめ、ふるふると肩を震わせた。

「ジャン団長の分からず屋!」

 ベアトリスは一言ジャンに文句を言うと、部屋を出る。
 自分の席に戻ると、心配そうにこちらを見ていたサミュエルと目が合った。

「なんか言い争っているような声が聞こえたけど……大丈夫だった?」
「サミュエル様、聞いてください! あの団長、鬼です。血も涙もありません!」

 ベアトリスはよくぞ聞いてくれたとばかりに、サミュエルに不満を訴える。

 実は今日、ベアトリスが楽しみにしていた本を含めた複数の新刊が発売される。王宮図書館にはいつ入荷されるかわからないし、ベアトリスは本選びの醍醐味は表紙と背表紙を眺めながら手に取り、一期一会を楽しむことにあると思っている。
 よって、離宮を抜け出してひとりでゆっくりと本屋に行きたいとジャンにお願いしに行ったのだが、結果は先ほどの通りだ。にべもなく却下された。