◆ 第五章 お飾り側妃、危機迫る


 
 離宮の一角、錦鷹団の事務室にベアトリスの声が響く。

「納得いきません」
「ダメだ」
「わたくしは行きたいです」
「ダメだと言ったら、ダメだ」

 ベアトリスはぷくーっと頬を膨らませる。キッと目の前の男──ジャンを睨み付けたが、ジャンは全くその視線を意に介すことなく両腕を胸の前で組み、涼しい表情をしている。

「どうしてですか! 全部仕事はこなしているし、妃教育もしっかりと受けています。咎められる謂れはありません!」
「ダメだと言っただろう。これは命令だ」

 ジャンの視線が剣呑さを帯びる。その鋭い視線に、ベアトリスはびくっと怖じけづく。
 ジャンはそんなベアトリスを一瞥すると、ふいっと視線を執務机の上に移動する。

「ほら」
「……え?」

 ジャンから差し出された書類を見つめ、ベアトリスは目を瞬かせる。

(何かしら?)

 ベアトリスはそれを受け取り、表紙を捲る。中身は、錦鷹団が最近解決に当たった事件の記録のように見えた。