「いたぞ、こっちだ!!」
たくさんの強堅な男達が武器を振りかざし、懸命に走り逃げる齢10歳前後の双子の兄妹を、血眼になって追いかけている。

「見たかあの双子の兄の崖から崖へと飛び回るジャンプ力、とても人間技とは思えない!」

双子の兄は妹をつれ、襲いかかってくる飛矢や石をかわしながら、人跡まれなる山道を超え森を超え、岩から岩を飛び越え必死に追ってから逃げ回っている。

「兄もそうだが妹はもっと不吉だ!!なんでも、目に見えないものを見て、人が感じられないものを感じる、恐ろしいまでもの予知能力を持っているとか。まさしく悪魔がよこした魔性の双子だ!!」

「きっと俺たちの村を滅ぼすに違いない、一刻も早く始末しなければ!!」

双子の兄のヒスイと妹のヒエン。二人が生まれた村の暦で、忌の年忌の月忌の日と刻に同時に生を受けたためか、この双子は人並ならぬずば抜けた身体能力を有していた。彼らの両親はその村の権力者だったため、両親の存命中はその保護を受けたが、はやり病で両親を亡くしてからは後ろ盾をなくし、村人からは絶えず命を狙われ続けていた。

逃れ逃れ、とうとうヒスイをしても飛び越えることなど到底不可能な、高い切り立った崖に追い詰められてしまった。

「妹に手を出すな!!」

懸命に妹のヒエンを守ろうとするヒスイ。だが殺気立った追手の一人が放った矢は、瞬く間に容赦なく彼の心臓を無情なまでに貫いた。

「お兄ちゃん!!」

さっきまで妹を守ろうと、地を踏みしめていたのがウソのように、ヒスイの体はもろくも崩れ去った。その体はみるみるうちに冷たくなっていき、矢の突き刺さった胸からは絶え間なく、鮮血がほとばしった。

「フン、まあ、兄のほうを殺せば、妹のほうも死ぬのは時間の問題だろう。もう二度と俺たちの村へ帰ってくるな、くたばれ悪魔の双子ども!!」

武装した集団は、絶望に打ちひしがれるヒエンたちを残して帰っていった。ぐったりと横たわった血まみれの兄を、彼女は自身に抱き寄せ泣きじゃくった。

「ああ、こいつはもう終わりだな……。」

若い男の声にヒエンは顔をあげた。見ると大きな鎌を持った黒服に身を包んだ色白の男が立っていた。

「あなたは誰?」

ヒエンは恐る恐る男に尋ねた。

「あ、そうか、君には俺が見えるんだね。俺は死神、死者の魂を狩る者だよ。」

(死神.........!?)

「君の兄はもう死ぬんだ、だからこの俺がその魂を狩りにきたってわけ。」

そう言うと死神は、ヒスイに大鎌を向けて振り下ろそうとした。

「やめて、お願いだからお兄ちゃんを連れて行かないで!!」

ヒエンの必死の叫びに死神は手をピタリと止めた。

「そんなに兄貴を助けたいの?」

「お願い、何でもするから、だからお兄ちゃんを助けて!!」

泣いてせがむヒエンを前に、死神は一計を案じた。

「死にかけてもいないのに俺が見える人間ってのも珍しいから、うーんそうだな、生き物の生死を司る俺なら、君の兄貴の魂を肉体に戻すこともできる、ただし......その生命の原理を、運命の輪を捻じ曲げるにはそれなりの条件、対価が必要だよ。」

「条件!?」

「君の兄貴を助けるその代わり、君は兄貴をどんなに愛していてもずっとは共にはいられない......。いつか、何らかの悲しみや苦痛をもって、君たちは引き裂かれる運命を迎える.......それが条件だよ。」

ヒエンはこの時死神が何を言っているのかよく分からなかった。それでも兄を失いたくない、死なせたくない一心でただ叫び続けた。

「何でもいい!!何でも受け入れるからだからお願い、お願いだからお兄ちゃんを助けて!!」

「.........承知した。」

死神が大鎌をヒスイから離した瞬間、突如彼の胸を貫いた矢は砕け散り、絶え間なくマグマのように流れていた血は止まり、みるみるうちに体が温かくなって、とうとう目を覚ました。

「俺はいったい........。」

元気に目覚めた兄を見て、ヒエンはホット胸をなでおろし、全身の力が抜けていったが、それでもその細く小さな腕からは信じられないほどの力で、強く兄を抱きしめた。

「お兄ちゃん、目が覚めて本当に良かった......。」

ヒエンの瞳から熱い涙が幾筋も溢れ出てきた。もう決して放しはしない。そんな妹をヒスイも両手で包み込んだ、その手はなんとも温かく、そして優しい。

「ねえお兄ちゃん、大きくなったらヒエンを、お兄ちゃんのお嫁さんにしてくれる!?」

晴れ渡る澄んだ青空の下光り輝く太陽の光は、まるでこの双子の兄妹を祝福しているかのように、彼らを照らし出していた。
「ああ、してやるよ。」

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