赤、白、緑。


 鍋の中を泳ぐ色とりどりの野菜。

 簡単でおいしい、大好きなスープ。

 でも、ぼんやりと菜箸を持つ私の頭は目の前の夕飯とは全く違うことを考えていた。


 黒崎くん。


 今日何度、その名前を呼んだだろう。

 数十分前、うなだれる幸記くんの手を引いて、雨につつまれた夜道へと消えていった背中。
 

「……どうして」


 口をつく言葉も、数え切れないほどくり返したもの。どうして、黒崎くんが幸記くんを連れ戻しにきたのか。

 幸記くんは、家族が迎えに来るのと言っていた。

 けれど黒崎くんと幸記くんは名字がちがうし、黒崎くんの家が四人兄弟だという話も聞いたことがない。


 じゃあ、親戚の子とか?


 幸記くんは地元のことを知らないみたいだったし、何か事情があって黒崎くんの家に住んでいるのかもしれない。

 それで。


「………それで、あの怪我を?」


 まさか、ともう一人の自分が否定する。

 あの人格者の征一さんや、真面目で不正を許さないと有名な要さん……それに、黒崎くんが「あんなこと」を許すはずがない。


(だったら、誰が幸記くんを……)


 わからない。

 何ひとつ明らかにならないまま、疑問だけがどんどん増えていって堂々めぐりしている。