脇腹から胸、鎖骨にかけて広がる、いくつもの鬱血。

 腕や下腹部は布に隠れて見えないけど、わずかな隙間からのぞく暗色の色素が青痣であることは容易に想像できた。


「どうして、こんな……」

「こ……こけた、だけで……」


 大したことない。そう必死に首を振る幸記くん。

 けれど、深く傷ついた心を隠せない表情は、それが不運によるものでないことを物語っていた。


(これ、これって、もしかして)


 苛め。
 虐待。
 暴力。


 いくつもの残酷な言葉が、泡のようにわき上がって思考を煮え立たせる。

 怖くて、ショックで、血の気が引くような思いに、指先がぶるぶると震えた。


(さっき泣いていたのは、これが原因だったの?)


 頬を濡らす涙も逃げるという言葉も、全てこの傷痕のせいだと考えれば辻褄が合う。

 でも、そんなひどいことが本当に起こっているなんて信じられなかった。信じたくなかった。

 メディアは毎日のように残酷な事件を報道しているけれど、それは生々しさを伴わない、どこか淡々と語られる現実で。
 

(な、なんとか、しないと)