立ちつくす私なんて目に入らないように、ぽろぽろと落涙する男の子。

 露に濡れた夏草と灰色の空を背負って涙を流す姿は映画の一番きれいなシーンみたいで、なのに悲しさと悔しさの入り混じった表情だけがリアルだった。


 ……本当に、どうしてしまったんだろう。


 なんて言っていいのかわからない。そもそも、状況がまったくつかめないし。

 でも、ふと視線を下げれば目に入ったのは雨で濡れたうすいシャツで、私は今さらながら傘を差しだした。


「あの、とりあえず立ちませんか?濡れちゃいますから」

「でも」

「ここ、蚊も多いし、離れたほうがいいと思うんです」

「………」


 止まない雨が川面に浮かぶペットボトルを叩く。沈黙の長さをはかるように、正確なリズムで。

 逡巡する男の子の目にはまだ警戒心がにじんでいたけれど、やがてためらいながら足を踏み出すと、


「あっ……」


 急いで右手を差し出した私に、よろめきながらもたれかかってきた。


「だ、大丈夫ですか?」


 受け止めた体は、子供みたいに軽かった。浮き出た骨が二の腕に当たる。


「ごめんなさい。足元がよく見えなくて」

「足元?」 

「うん、石につまづいたみたい。たまにこうなることがあって」


 そう言いながら辺りを見回す目は、こんなに近いのにどこかうつろだ。自信なさげにすがりつく冷えた五指、何度もまばたきする長いまつ毛。

 私は唐突に気付いた。


(……この子)


 目が悪いんだ。