そして消えゆく君の声

 たしかに私が幸せそうな原因は黒崎くんで、話したいとか、色々知りたいとか思っているけど。

 でも、告白したり付き合ったりしたいわけではなくて、ただ一緒にいたいだけというか、時々話ができたら、それで十分というか……


(というかっ、私、男の子と出かけたことすらないし!)


 何の自慢にもならないけど私の恋愛経験値の少なさはすごい。

 小学校中学校とこっそり憧れてた人はいたし、一度か二度くらいなら告白されたこともあったけど、結局ひとつも発展しなかった。

 一人の相手と特別な関係になるのが想像できなくて……というのもあるけど、何より、気楽な日常から知らない世界へと踏み出すのはとても勇気のいることだったから。

 そう話した時、雪乃たちは『桂って情熱が足りないんじゃない?』『そんなんだから駄目なんだ』って呆れていたっけ。

 だけど。


(今は、違うのかもしれない)


 今の私は、一歩でも二歩でもいいから、黒崎くんに向かって歩きたいと思っている。

 もっと近付きたい、もっと知りたい。黒崎くんの前にある壁をやぶって、色々話せるようになりたい。


 すくむ足すら動かす、能動的な想い。

 告白したいとか
 付き合いたいとか
 手をつなぎたいとか。

 そういうはっきりした気持ちじゃないけど。


 でも、これって。もしかして、これが。


(好きっていうこと、なのかな)