「日原さん、そっちの花取ってくれる?」

「あ、はい。あの、本当に普通のお花で良かったんですか?」

「いいのいいの、花なんて本人が喜びそうなものが一番だし」


 ある初夏の日。
 私は要さんと一緒に幸記くんに会いにきていた。

 駅で落ち合って、送迎用のバスに揺られて。本当は黒崎くんも一緒の予定だったのだけど途中でアクシデントが起きてしまい、後から合流することになっていた。


「新幹線遅れていつこっちに着くかわからないって。笑える。あいつ昔から巡り合わせの悪いところあるよな」

「笑わないでください。動き始めてるみたいですから、そんなに遅くならないとは思うんですけど」


 からかうように口角を上げる要さんの背中をはたいて、花立に水を入れる。

 お店で選んだ花束は白いユリを中心に季節の色花を選んだもので、お供えには少し派手な気もしたけど、夏のちらつくまっすぐな陽射しのなかで生き生きと美しく見えた。


 頭上には澄みわたる空。

 芝生は青々として、新緑に彩られた木立からは鳥の高い声が聞こえる。

 清潔な風の匂いも静かに流れる時間もあの子のためにあるようで、胸の奥のさびしさがほんのすこし温められた。