そして消えゆく君の声

 ……山と積まれた本と格闘すること数十分。


「あ、これかわいい」


 乱雑に重ねられた本の中から見つけたのは、色あざやかな水彩画が目を引く英語の本。

 それは子ども向けの動物図鑑みたいで、ページいっぱいに広がる森を舞台に、色とりどりの鳥や飛びはねるウサギが生き生きと描かれていた。

 絵本みたい、とわくわくしながらページをめくると、目に入ったのは小さなネズミたち。


「これ野ネズミかな?外国の絵本とかによく出てくるよね」


 枯葉の上に集まって、隙間から生えた芽をを鼻先でつついている。

 兄弟なのかな、そんなことを考えていると、


「タビネズミ」


 となりで本のほこりを払っていた黒崎くんが、ぼそ、と呟いた。


「タビネズミって、このネズミの名前?」

「多分。レミングって呼ばれてる」

「へー。あ、本当だ、下に名前書いてある。黒崎くん詳しいね」

「……」

「動物とか好きなの?」


 意外な趣味にニコニコする私とは反対に、黒崎くんの表情はどこか影が差している。


「前に本で読んで、印象に残ったから」

「本」

「ああ。レミングは」


 長い首をゆっくり縦にふると、視線は手元の本に注いだまま低く続けた。



「そのネズミは、自殺するって言い伝えがあるんだ」