季節は、オルゴールのネジが回るように移り変わっていった。

 少しずつ日が長くなって、冬のつめたい空気がじわりとぬくもりを帯びて、草木の芽吹く匂いがして。

 そんな風に美しい変化を奏で、重ねながら、確実に前へと進む時間を、夜明けを待つように見届けた。
 

 今年は記録的な暖冬で、三月上旬並の気温になる日もあったせいか、春の兆しが訪れるのが早かった。

 道端のあちこちで顔を出す緑、秋に葉を落とした木々のそこかしこで膨らむ小さな蕾。おかげでお気に入りのコートは一度しか着られなかったけど、私はそれを、あの子に起きた奇跡だと思った。


 花が咲く。

 ひとつひとつほころんで、庭園を彩っていく。赤の、黄色の、桃色の、白の、紫の、目を覚ました色彩が、寒々とした風景を一変させる。

 中央の池が風に揺らぎ、まばゆい光を絶えず反射しながらさざなみを走らせるのを、窓越しに眺めた。


 私たちは可能なかぎり足を運んだ。話をした。聞いた。手を握った。ただ黙って時を過ごすこともあった。どうしようもなくこみ上げるものがエレベーターで溢れた時、ぎこちなく伸びてきた黒崎くんの手はあたたかかった。


 絶対に忘れない、三人で過ごした大切な時間。私の中で永遠に輝き続ける光。