熟れて滲む太陽が、少しずつ沈んでいく。


 黒崎くんと幸記くんは、長い時間話し込んでいた。何を話しているのかはわからないし、立ち入る必要もない。二人には、二人だけで過ごしてきた時間、交わすべき言葉があるのだから。お互いを大切に思っていたからこそ言えなかった、聞けなかったことが。

 病室へと向かう階段で見た黒崎くんの、夢から醒めたような横顔、真っすぐに前を見すえた視線を思い出して、そう考える。

 
 やがて、木目調の扉が滑るように開いた時、すこしだけ幸記くんの声が聞こえた。起き抜けに部屋を照らす光のように清らかで、柔らかく心に触れる声。

 
「馬鹿だなあ、秀二は」


 もっと早く言ってくれたら、俺も少しは荷物を持ってあげられたのに。

 
 その言葉は穏やかな優しさに満ちていて、私は白い壁の向こうに、どこか大人びた表情で微笑む幸記くんを想像した。

 
 誰よりも強くて誰よりも思いやりのある、大好きな男の子の笑顔を。