「だから、俺も一度くらい守りたかった。最低なことをしたってわかってる。だけど、どんなに苦しくても秀二はあの人を……そして俺を、過去にしないといけない。忘れろって言ってるんじゃないよ、引き出しの奥に大切にしまっておけばいいんだ。俺はそうしてほしいし、きっとあの人も――」


 窓の向こうで日が落ちていく。


 決して遠くない別れの手触り。

 わき上がる思いが喉をしめつけて、無意識に触れた幸記くんの手はあたたかかった。


 桂さん、と幸記くんが名前を呼ぶ。

 優しい響きがすこし高かったのは気のせいだろうか。次の瞬間、不意に骨ばった指が絡みついてきて、重なる体温を自然な動作で引き寄せた。

 そして。


「――」


 あ、と思うより先に、やわらかい感触が手の甲につたわる。

 数秒たってから、それが幸記くんの唇だと気付いた。


「こ」

「……ごめん、こんなこと」

「幸記、くん……」