初めて出会った日、雨の中でたたずむあの子はうちひしがれた花のようだった。


 消えてしまいたかったと呟いた、色のない唇。涙に濡れた瞳。血管の透けた細い腕。

 傷ついた身体と心は触れると壊れてしまいそうで、わけもわからないまま助けたいと強く願った。


 だから、夏の陽射しの下で明るい笑顔に再会したときは驚いた。


 ほんの少しの間に背が伸びて、自分の気持ちを真っ直ぐ口にして。私の手を包みこんだ掌は、想像よりずっと大きかった。

 しなやかに、力強く。華奢な四肢の下で何かが変わり始めているのが伝わってきた。柔和な笑顔と、優しい気遣いはそのままで。


 残暑が去って、葉が色づいて、風がキンと冷たくなって。


 季節がうつろうにつれて、どんどん大人になっていった横顔。いつしか見上げることに慣れた、二人の距離。

 こんな時間を、ずっと過ごせるのだと思っていた。二人で、時には三人で。


 私に優しく笑いかけながら、次は雪を見たいねと、確かな言葉で未来を語りながら、あの子は何を考えていたのだろう。

 理不尽な運命への怒りも、苦しみも、悲しみも、何ひとつ口にせず。


 いつしか手に馴染んでいた体温を思い出して、私は両手をこすり合わせた。

 高架下を抜けて、線路沿いの道を歩く。やがて現れた要さんいわく「たまねぎみたいな屋根」の病院は、レンガ造りとあいまって外国の教会みたいだった。