「弟は子供のころから征一を慕っていた。だから征一が病に侵されていると知り、失うことを恐れるあまり距離を置くようになったんだ」

「……」

「征一の死後はふさぎ込み、部屋から出て来なかった。だから決心がついたら来るようにと言ったんだが、あんなことになるとは思わなかった」

「……そうですか」

「そう言うしかないからね。無理があってもこの設定で押し通すしかないの」


 征一さんの告別式から一週間後の週末。
 例によって『どん底』で落ち合った要さんと私は、半ば定位置と化した奥の席で向かい合っていた。

 いつも通りの唐突な誘い。
 いつも通りのすみっこの席。

 派手な模様を織り込んだカーディガンを着た要さんもいつも通りの慣れた手付きで煙草をふかしているけれど、整った顔はどこか憔悴して見える。


 疲れてますね。


 目がそう言っていたのか、つり上がった眉がぎゅっと寄せられた。


「いやもう、最悪だよ。そりゃ俺だってお兄様は好きじゃなかったけど、物事には順序ってもんがあるでしょ。なんでああいう極端なことするかね」


 ああやだやだ、と肩をすくめる。