黒崎くんの慟哭につられたように、静まり返っていた参列者が、落涙の息を漏らし始める。

 一人、また一人と、泣き声はどんどん増えていって、大好きだった人を送り出す。

 とうとう降り出した雨が肩を濡らしても、誰一人傘をささなかった。


 力を失い、地面に崩れ落ちた黒崎くんに肩を貸しながら、お父さんが参列者を見た。すこしせまい眉間にしわを寄せて、深く頭を下げる。

 感謝か、謝罪か。

 どちらにせよ黒崎くんの目は絶望に塗りつぶされて、何も見ていなかった。半開きの唇は、いまだ兄を呼んでいる。 




 クラクションが鳴り響き、征一さんを乗せた車が走り去ってからも、私はその場から動けなかった。

 濡れた爪先は冷たくて、凍りついたようだった。

 数歩先に見えいていたはずの幸せは消え去り、耳の奥には黒崎くんの声がこびりついている。

 胸を満たすどうしようもない空虚感が怖くて楽しい記憶を思い出そうとしても、現れるのは喪失の結末ばかりで。



――ただ、全身を濡らす雨が何もかも洗い流してくれたらいいのにと強く願った。