そして消えゆく君の声

 生々しい鉄の匂いが立ち込める中、彼は吐息混じりにたずねた。


「いつから、こうする気だった?」


 語尾がかすれている。

 口元に浮かぶのは穏やかな笑顔なのに、眉間には激痛を訴えるしわが刻まれていた。


「……さっき、秀二の話を聞いた時。やるなら、俺しかないと思ったから」

「そう」

「これが、俺の役目だって思ったから」


 秀二が彼に刺されたと聞いた時、耳を疑う俺たちに、彼は淡々とことの成り行きを語った。


 彼が、秀二を取り返そうとしたこと。

 そのために、俺の一番大切な女の子を傷つけようとしたこと。


『……お前そこまでイカれてたのかよ』


 いつも冷静な男が途方に暮れたように眼鏡ごしの目を細めて「どうしてそんなことをした」とたずねた時。


『僕にもわからないんだ、どうしてか。次がないかどうかもわからない』


 真っ黒な瞳でそう答えた彼に、俺は初めて明確な殺意を抱いた。


 殺してやる、ではなく、殺さなくてはいけないと。