「桂さん」
「ご、ごめんね。でも、でもっ、良かったっ、て思うと……」
「うん、俺もホッとした」
声がつまって、ひっくり返って、ろくに話せない。
幸記くんは、何もかもつつみこむような声でもう一度『桂さん』と名前を呼ぶと、ゆっくりと続けた。
「もうひとつ、桂さんに言わないといけないことがあるんだ」
声のトーンが変わる。切羽詰ったような、それでいて覚悟を決めた声。
言いたいことって? とたずねても、返事はない。
流れる沈黙に何となく嫌な予感がわきあがって枕を抱えると、電話の向こうの幸記くんが息を吐いた。
「幸記くん、どうかしたの。もしかして、黒崎くんに何か……」
「ううん、秀二の話じゃないんだ。俺のこと」
何も見えない夜の室内で、私の五感は幸記くんに集中した。
冷たい空気が肌を刺す。バッテリーの残量が気になって、通話口からちょっと顔を離そうとした時。
「――桂さん。俺、あの人を殺したんだ」
真っ直ぐな声が、悪い夢のように響いた。
「ご、ごめんね。でも、でもっ、良かったっ、て思うと……」
「うん、俺もホッとした」
声がつまって、ひっくり返って、ろくに話せない。
幸記くんは、何もかもつつみこむような声でもう一度『桂さん』と名前を呼ぶと、ゆっくりと続けた。
「もうひとつ、桂さんに言わないといけないことがあるんだ」
声のトーンが変わる。切羽詰ったような、それでいて覚悟を決めた声。
言いたいことって? とたずねても、返事はない。
流れる沈黙に何となく嫌な予感がわきあがって枕を抱えると、電話の向こうの幸記くんが息を吐いた。
「幸記くん、どうかしたの。もしかして、黒崎くんに何か……」
「ううん、秀二の話じゃないんだ。俺のこと」
何も見えない夜の室内で、私の五感は幸記くんに集中した。
冷たい空気が肌を刺す。バッテリーの残量が気になって、通話口からちょっと顔を離そうとした時。
「――桂さん。俺、あの人を殺したんだ」
真っ直ぐな声が、悪い夢のように響いた。