こぼれた声は、泣き過ぎでかすれていた。


 今の状態を考えれば充分ありえることなのに、なぜか私は、幸記くんが連絡をくれるとは想像していなかった。

 すぐに通話ボタンをタップしようとして、直前で手を止める。


 ……嫌なことを、知らされるかもしれない。


 幸記くんが、知りたくない現実、絶望的な状況を告げてきたらどうしよう。

 怖い、聞きたくない。
 でも耳を塞いでも、事実から目をそらすことはできない。

 私はぎこちなく深呼吸をして、ようやく携帯を耳にあてた。


「……幸記、くん?」

「桂さん。良かった、出てくれて」


 数日ぶりに聞いた幸記くんの声は、とても静かだった。

 電話を通すとわずかに声が低くなって、別人のような印象をうける。


「幸記くん。あの……黒崎くんは、どうなったの?」

「うん。そのこと伝えようと思って、電話した」


 携帯を持つ手に力がこもる。心臓が痛いほど騒いで、今にも爆発しそうだった。

 怖い。
 逃げてしまいたい。
 でも聞かないと。

 涙ではりついたまつ毛でまばたきする。

 幸記くんは吐息だけで笑った。穏やかな呼吸に、ひょっとして、と生まれた安堵。そして。


「大丈夫だよ。数日入院しないといけないけど、視力にも問題ないって」


 優しい声が大切な人の無事を告げた時。
 私は全身を脱力させた。

 吹き抜ける安心に目を閉じて、胸をおさえた瞬間、ようやく止まっていた涙がまたボロボロとこぼれた。

 さっきまでの死刑判決を待つような涙じゃない。ただただ安堵して、喜ぶには早いとわかっていても、胸のつかえが下りたようで。