そして消えゆく君の声

 腕の中の黒崎くんが、何か言おうと唇を開く。

 けれど、吐き出されたのは今にも消えてしまいそうな細く弱々しい呼気だけだった。


「今の自分は底の抜けた器のようなもので、どんな経験も心をすり抜けてしまうけど、弟が笑ってくれるなら、いつか奇跡が起きるんじゃないかって。弟の幸せは、僕にとって何より大切な、かけがえのないもののはずだから」

 指の長いしなやかな手が、黒崎くんの大きな手を包みこむ。

 大事そうに、慈しむように。


「君の、僕が秀二を苦しめているという言葉を僕は否定できない。苦痛というものがわからないから。でも、少しでも昔のように二人で笑い合える可能性があるのなら、諦めることはできない」


 秀二が心から幸せだと笑ってくれることを、諦められないんだ。

 穏やかに内面を吐露して、征一さんは私の目を覗き込んだ。きっと、寂しいものを見るような眼差しを向けているであろう瞳を。


「僕が、悲しんでいるように見えたかな」


 そしてまた、いつもの笑顔を浮かべる。


「本当は、何とも思っていないんだ」


 やわらかに微笑む顔は、子供みたいにあどけなかった。