そして消えゆく君の声

 荒ぶる気持ちが、動きを止める。


 征一さんは床に膝をついて、ぜえぜえと息を吐く黒崎くんの肩を引いた。

 うつむいた頭を胸に抱えて、顔にハンカチをあてる。


「秀二」

「……ッ……」

「秀二、もうすぐ迎えがくるから」


 いたわる言葉と顔に飛んだ血、どこかうつろな目。

 不揃いな要素をより合わせた横顔は不安定で、調律の狂ったピアノを連想させた。


 ずれた音しか出ない鍵盤で、正しい楽譜を弾こうとしている。
 

「今日は、笑ってくれないんだね」
 

 額を押さえて、征一さんはわずかに眉を寄せた。

 伏目になって、長いまつ毛が影を作る。苦痛を堪えるような表情に、おずおずと横に座った私を一瞥すると、淡々と続けた。


「僕は時々、強い頭痛を感じることがあるんだ」
 
「……頭痛?」

「どう説明すればいいかな。突然立っていられない程の痛みに襲われて、過剰に自己を守ろうとする。これは僕自身の意思というより、過去の体験に関係した条件反射のようなものだと推測しているんだけど」


 他人事めいた説明は、けれどどこか痛々しく響いた。


「初めて秀二に傷を負わせた時もそうで、気がついた時には「そう」なっていた。でも秀二は昔みたいに笑ってくれて、だから僕は、これは幸せに至る方法かもしれないと考えた」