そして消えゆく君の声

「せ、征一さんっ……」

「………」


 目を見開いて青ざめる女の子。
 横に立つ黒崎くんも口元をゆがめて下を向く。

 指先まで硬直する私たちを見遣ると、征一さんはふわりと笑みを浮かべた。

 綺麗な三日月型に持ち上がる唇。ただ微笑んでいるだけなのに、まるで柔らかい空気に包まれてるみたいな気分になる不思議な人。


(こんな近くで見たの、初めてかも)


 予想外の展開に心臓が騒ぐ。急激に高鳴る鼓動は痛いほどで、けれど、穏やかに佇む征一さんの顔を眺めている内に、私は徐々に落ちつきを取り戻していった。


 もう安心していい。
 だって、征一さんが来たんだから。


 もちろん、学園の王子様と直接話したことなんてないけれど、この人がどれほど誠実で、みんなに信頼されているかはいつも噂で聞いていた。
 
 ひかえめで、物静かで、けれど人をまとめるのが上手で。

 何をしても何を言っても目立つ征一さん。
 

 征一さんなら、この場を上手くおさめてくれるはず。黒崎くんをかばってくれるはず。


 だってお兄さんなんだから。


 そう考えてこわばった表情を和らげると、征一さんは緩やかに笑みを深めて、


「秀二は、いつも人と上手くいかないね」