鞄の留め具が擦れ合う音。
上履きのゴムがきゅっと鳴り、振り返った征一さんの肩越しに影が動く。
そして、叩きつけるような勢いで開いた扉。
「……ぁ……」
「………」
目を見開く私と、すこしも表情を変えない征一さん。
次の瞬間、暗闇に沈んでいた室内が、唐突に明るくなった。
「…………日、原……」
一斉に点灯した照明。
痛いほどの光が網膜をやく。
眩しさに何度もまばたきしながら視線を巡らせると、長い指が壁のスイッチにそえられているのが見えた。
呆然とした表情で入口に立ちつくしていた「彼」が、ひゅ、と鋭く息を吸う。
「何、してんだよ……」
「困ったな。てっきりもう帰ったものだと思ったのに」
肩をすくめる征一さんの声は平静そのもので、朗らかと言ってもいいほどだった。
「っ!」
手の力が弱まったことに気付いて、私はあわてて拘束から逃れた。
転がるように床に座り込んで、乱れたブラウスの合わせ目をつかむ。
ボタンを留めようとしたけれど、極限まで緊張した心が弛緩したとたんに恐怖心と恥ずかしさが噴き上がって、指が思うように動かなかった。
急に目の奥がツンとして、必死に唇を噛む私を信じられないものを見るような目で見て、彼……黒崎くんは、征一さんに掴みかかった。
上履きのゴムがきゅっと鳴り、振り返った征一さんの肩越しに影が動く。
そして、叩きつけるような勢いで開いた扉。
「……ぁ……」
「………」
目を見開く私と、すこしも表情を変えない征一さん。
次の瞬間、暗闇に沈んでいた室内が、唐突に明るくなった。
「…………日、原……」
一斉に点灯した照明。
痛いほどの光が網膜をやく。
眩しさに何度もまばたきしながら視線を巡らせると、長い指が壁のスイッチにそえられているのが見えた。
呆然とした表情で入口に立ちつくしていた「彼」が、ひゅ、と鋭く息を吸う。
「何、してんだよ……」
「困ったな。てっきりもう帰ったものだと思ったのに」
肩をすくめる征一さんの声は平静そのもので、朗らかと言ってもいいほどだった。
「っ!」
手の力が弱まったことに気付いて、私はあわてて拘束から逃れた。
転がるように床に座り込んで、乱れたブラウスの合わせ目をつかむ。
ボタンを留めようとしたけれど、極限まで緊張した心が弛緩したとたんに恐怖心と恥ずかしさが噴き上がって、指が思うように動かなかった。
急に目の奥がツンとして、必死に唇を噛む私を信じられないものを見るような目で見て、彼……黒崎くんは、征一さんに掴みかかった。
