そして消えゆく君の声

 問いかけに似た声が震えを帯びて聞こえたのも、きっと都合の良い錯覚だろう。

 咄嗟に押し返そうとした手は難なくとらえられ、頭上で一つかみにされる。


「あ……」


 同時に、一番上のボタンが滑るように外されて、身震いした。

 自分の身に起きようとしている信じられない事態に、頭の中で警鐘が鳴っている。

 恐怖と、混乱と、焦燥。なのに、砂に呑まれていくように、どこか現実感がない。


「離してください、ど、どうして……」

「前に映画で見たから。暴漢に襲われた女性が恋人の前から姿を消すという話を。被害者である女性がなぜ、と不思議に思ったけど、彼女は恋人を苦しめたくなかったんだ」


 まるで他人事のような言葉。

 耳元に前髪が触れて、距離の近さに鳥肌が立つ。
 

「こんな、こんなことしても何も変わりませんっ」

「だからと言って手をこまねいていたら、君は秀二を連れていってしまうから」