廊下から、足音が聞こえてくる。階段を上がって、こちらへ向かっているみたいだ。誰か忘れ物でもしたんだろうか。

 私は横目で廊下の様子をうかがいながら、美術書の詰まった本棚の鍵をしめた。

 本棚の鍵、準備室の鍵、ロッカーの鍵。本当はちゃんと保管しておかなきゃいけないのだけど、美術の藤沢先生は面倒だからと全部石膏像の下に隠している。


(ここなら誰にも見つからないって言うけど、普通に公言しているんだよね)


 取られるようなものは置いていないんだろうけど、それにしても無用心というか。

 半分呆れて、半分笑いながら鍵を片付けていると、黒崎くんと本を整理した日のことを思い出した。


 あの頃の私は何も知らなくて、ただ黒崎くんに笑ってほしいって願っていた。

 あれからいっぱい悩んだり、泣いたりしたけど。今ようやく、願いが叶い始めている。