そして消えゆく君の声

 征一さんが家を出る。


 あの人がどうしてその選択を取ったのかはわからないけど、これで黒崎くんが傷つけられることはなくなる。

 うつむくことをやめて、少しずつ穏やかな表情を見せるになってきた黒崎くん。

 けれどそれで周りを取り巻く状況が変わるわけではなくて、数日前にもふとした拍子に脇腹をかばっていた。


「これは、俺が受け止めなきゃいけないものだから」


 そう言って譲らない黒崎くんは、征一さんの行動を怒りと愛情が絡み合ったものだと認識しているのだろう。

 大切なものを失った征一さんは自分自身でも気づかないところでその事実に苦痛を覚えていて、それがデータで学んだ「兄らしい行動」を侵食しているのだと。

 だから、傷つけることであの人のどこかが癒えるならそれでいいと。

 黒崎くんの見立ては正しいのかもしれないし、他に償う方法があるのかと言われたら、私には答えられない。

 でも私は嫌だった。これ以上大切な人が傷を負うのを見たくなかった。

 だから、征一さんがこの街を離れると聞いて、ようやく終わるのかもしれないと思った。


 赦される日が近づいているのかもしれないって。