「お前に俺の何がわかるんだよ。我慢しても変わらない? 当たり前だろ、俺がそうしたんだから。他に何ができる、どうやって償えばいい」

「だからって、そんな風に何度も傷ついたらいつか心も身体も壊れちゃうよ。私言ったよね、何もかも一人で抱え込まなくていいって。あの時、黒崎くんは誰かの助けを求めていた。それでいいんだよ。助けてって言っていい」

「言えるわけないだろ!」


 苦しげな声が、空気を震わせる。


 喉底からしぼり出された声は、私だけでなく、黒崎くん自身も律しているようだった。

 崩れるな、耐えろと。


「あいつは、征一は信じているんだ。これが俺のためになるって、兄としての愛情だって。わからなくしたのは俺なんだから、受け入れるしかないじゃないか。あいつと、幸記と、二人分の人生めちゃくちゃにしておきながら、どうして他人に手を伸ばせる。知ったようなことばかり言うな!」


 血を吐くように述懐して、肩で息をする黒崎くん。

 真っ黒な瞳は磨かれたようなつやがあって、私は彼が泣いているんじゃないかと思った。


 けれど、涙は流れていなかった。きっと、泣くことを禁じているから。

 泣いたら助けを求めることになると、綻びかけた心を堅く閉め切ったから。