「夏と、秋に一回ずつ。要さん言ってた、黒崎くんは時々、死人みたいな顔して部屋から出てこなくなるって」

「それは」

「うなされてるんだよね、ホタルを見た日みたいに。苦しいのに、どうして言ってくれないの。何もかも話せって言ってるんじゃない。でも黒崎くんが手を伸ばしてくれないと、つなぐことも出来ないよ」


 私の言葉を拒むように、強くかぶりを振る黒崎くん。

 ぱらぱらと散る前髪が、それ以上喋るなと言っている。何も言わないでくれと。


「誰がいつ、手を引いてほしいなんて言った。前も言っただろ、俺は助けなんて求めていない」

「じゃあ、一人で耐えるの? 明日も明後日もその次も、ずっと痛みを我慢して生きていくの?」


 襟元から除く痣。きっと、癒える間もなく傷は増えていくのだろう。

 全部自分が悪いのだと、心も身体もボロボロになって、


 でも。

 そんなことしても。


「何も変わらない。黒崎くんが一人で傷ついて、一人で耐え続けても、誰も救われないよ」


 ギリ、と歯が鳴った。


「黙れ!」


 黒崎くんはほとんど、顔面蒼白だった。

 激しい怒りが、青い炎のように寒色の熱を放っている。怒りの矛先は私じゃない。もっと遠くの、手の届かないもの。