「ずっと思ってた。黒崎くん、誰とも対話する気がないよね。私、クラスの子が黒崎くんのことを誤解してるのが嫌だった。本当は優しい人なのにって。でもあれじゃ伝わらなくて当たり前だよ、なんで橋口くんに、黒崎くんを大事に思ってくれる人にあんな風に接するの」

「うるさいな。鬱陶しいからに決まってんだろ。橋口も……お前もだよ」


 吐き捨てるような言葉を真っ向からぶつけられて、喉奥が痛くなる。

 胃酸がせり上がってくるような感覚は、悲しいからだとか、傷ついたからじゃない。


 きっと、私は腹を立てている。


 何もかもを締め出して、優しい言葉すら無視する黒崎くんに。

 苦しくて苦しくてうなされているのに、確かに涙を流したのに、目の前の手を振り払おうとする背中に。


 一人で歩き出そうとした黒崎くんに、私は小声で、でもはっきりと言い返した。


「……そんな風に」


 こみ上げる胸の痛みを、決意とともに飲み込む。
 

「そんな風に人を避けても、何も変わらないよ」


 大きく渦を巻いた風に煽られて、道沿いに植えられた木々が、一斉に揺れた。