赤らんだ耳の奥によみがえる、私の名前を呼んだ声。肩に残る手の感触。
 

『黒崎とか、いかにもストーカーとかしそうな感じだし』


 なんて雪乃は言っていたけれど、これじゃあ私のほうがストーカーだ。

 四月に同じクラスになってから二週間前まで話したことすらなかったのに、どうしてこんなに気になるんだろう。


 優しくしてもらったから?

 謎めいた態度への好奇心?


 わからない。
 わからないけど、両目は勝手に猫背の影をさがしていて。


(……なんだろう、この気持ち)




 答えの出ない疑問をもてあましながら校門をくぐる。と、ふいに車のエンジン音が近付いてきた。

 控えめな音に道をあける生徒たち、そして上がる嬉しそうな声。


「ねえねえ、黒崎先輩きたよ!」


 その声に思わず後ろを振りかえると、そこにいたのは私の探していた人とは違って……ううん、「黒崎くん」には違いないんだけど。


「おはようございます征一さん」

「あの、階段までご一緒していいですか?」


 たくさんの女の子たちが集まる校門前。
 正面脇に停められた黒い車から降りてきたのは、


「おはよう。僕で良ければ喜んで」

「少し下がってくれ、歩きにくい」


 黒崎くんのお兄さん、黒崎征一さんと黒崎要さんだった。